「SiCパワー半導体のシェアや関連銘柄が知りたい」
「そもそも”SiC”ってなに?」
「SiCパワー半導体で伸びる企業を教えて…!」
このような疑問を解決します。
こんにちは。はくです。
2019年に大学院を卒業し、現在は半導体製造装置メーカーで機械設計エンジニアとして働いています。
本記事では、SiCパワー半導体の関連銘柄10社を紹介します。
SiC半導体とは何かという説明から、具体的な用途や市場シェア、さらには半導体株投資の注意点も解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事を読むとわかること
- SiC半導体とは何かがわかる
- SiC半導体の関連銘柄がわかる
- 半導体株投資の注意点がわかる
SiC半導体とは
SiCは「シリコンカーバイド」と呼ばれ、シリコンSiと炭素Cで構成される化合物半導体材料です。
シリコンよりもバンドギャップが広く(Siの3倍)、絶縁破壊電界強度が高い(Siの10倍)のが特徴。
シリコンと同じ耐圧を、より薄い耐圧層で実現できるため、大きな電圧・電流を扱うパワー半導体材料として注目されています。
SiCが「ワイドギャップ半導体」や「次世代パワー半導体」と呼ばれるのは、このような理由から。
原子内で、電子が存在できない領域のこと。
バンドギャップが大きいと、電気を流すために大きなエネルギーが必要になる(=電気が流れにくい)。
また、パワー半導体では大電流・電圧を扱うため、内部で電気が熱に変わる「電力損失」の問題があります。
そのため、通常はファンやヒートシンクによる放熱が必要ですが、SiCパワー半導体は、電力損失や発熱が少ないため省エネル・機器の小型化を実現できるのもメリットです。
SiCパワー半導体の特徴
- 高耐圧
- 低損失
- 省エネ
- 小型化
- 高速化
SiC半導体の課題
一方で、SiCパワー半導体の実用化には課題もあります。
代表的なものを挙げると、以下のとおり。
- ウエハの大口径化
- コスト
- 欠陥の低減
まず、現在主流として用いられているSiCウエハは6インチ(150mm)です。
一方で、製造コストを下げるために8インチ(200mm)へのスケールアップが求められており、品質を保ったまま「ウエハの大口径化」技術の確立が必要。
また、ウエハ自体の価格もSiに比べて高額であり、コストも課題となっています。
もう1つ、SiC結晶は、結晶欠陥が生じやすいことが従来から問題視されていました。
そして結晶欠陥があると、デバイスの特性を悪化させることもわかっています。
そのため、欠陥の低減や無害化などの対策が必要で、こちらもSiC半導体の課題の1つです。
SiCパワー半導体の用途
さきほど言ったように、SiC半導体は、その特徴を活かして主にパワー半導体市場での利用が広がっています。
価格が高いため民生機器としての用途は少なく、自動車や鉄道、エネルギー、データセンターなどの産業用途などがメイン。
たとえば、自動車では各種センサや自動システムを駆動するための電源回路にパワーデバイスが用いられます。
電気自動車では、モーターの制御にコンバータとインバータ(直流↔交流を変換する)が必要。
現在は、価格の面からSiデバイスが主に使われていますが、SiCデバイスを採用することで高効率・小型化が実現でき、航続距離を伸ばすことにつながります。
SiCパワー半導体のシェア
SiCパワーデバイスメーカーの売上高ランキング(2021年)は、以下のとおり。
国内の主要メーカーとしては、4位のローム以外に、デンソー、三菱電機、富士電機、東芝デバイス&ストレージがあります。
順位 | 社名 | 本社 |
---|---|---|
1位 | STマイクロエレクトロニクス | スイス |
2位 | インフィニオン・テクノロジーズ | ドイツ |
3位 | ウルフスピード | アメリカ |
4位 | ローム | 日本 |
5位 | オン・セミコンダクター | アメリカ |
STマイクロエレクトロニクス
1位のSTマイクロエレクトロニクスは、スイスに本社を置く(法人登記はオランダ)欧州の半導体企業です。
SiCパワーデバイスで市場シェア40%と、圧倒的な地位を築いています。
注目ポイントは、テスラのModel3に搭載される駆動用モーターのインバーターに、STマイクロのSiCパワーデバイスが採用されていること。
これによりSTマイクロは大きく売上を伸ばしました。
インフィニオン・テクノロジーズ
インフィニオンテクノロジーズは、ドイツの半導体企業です。
Siのパワー半導体では世界シェア1位を獲得しており、最近では、Siに加えてSiCにも注力しており、とくに車載向けが売上を伸ばしています。
ウルフスピード
ウルフスピードは、SiCやGaN(窒化ガリウム)などのワイドギャップ半導体を開発・製造するアメリカの半導体メーカーです。
SiCウエハーも製造しており、日本のルネサスエレクトロニクスはウルフスピードから10年間にわたりSiCウエハーを調達する契約を発表。
アメリカのGMや、ドイツのZFなどの自動車・自動車部品メーカーとも提携を結んでいます。
オン・セミコンダクター
オン・セミコンダクターは、米アリゾナ州に本社を置く大手半導体メーカーです。
SiC事業では垂直統合型のビジネスモデルが特徴で、SiC結晶からウエハー、パワーデバイス、パワーモジュールの製造・開発まで自社で一貫して手掛けます。
SiCパワー半導体の国内銘柄6社
では、ここからは国内のSiCパワー半導体関連銘柄を紹介していきます。
ローム
ロームは、京都に本社を置く半導体メーカー。
2022年売上高では国内4位、SiCパワー半導体では世界シェア1~2割を占め国内トップです。
直近では、SiC事業への投資が加速しており、2027年に5100億円を投資して世界シェア1位を目指すと発表しています。
2023年11月に取得した宮崎工場では、8インチのSiCウエハーに対応した生産ラインを構築。
2030年までにSiCの生産能力を35倍に拡大することを目指しています。
また、ロームはSiCウエハーを手掛けるドイツSiCrystal社を傘下に持ちますが、自社でもSiCウエハーの製造に乗り出す予定です。
デンソー
デンソーは自動車部品メーカーとして有名ですが、車載向けの半導体を手掛ける半導体メーカーでもあります。
2030年までに半導体分野へ5000億円を投資すると発表しており、とくにSiCパワー半導体の生産を拡大。
2023年に発表したSiC半導体を用いたインバーターは、レクサスの電気自動車専用モデル「新型RZ」に搭載されています。
また、SiCウエハーの調達には米Coherent社に三菱電機で共同で10億ドル(約1500億円)を出資。
自社でもSiCウエハー製造の新技術「ガス成長法」を開発して、ウエハー製造の低コスト化に取り組んでいます。
レゾナック
レゾナックは、半導体材料を手掛ける化学メーカーです。
とくに後工程向けに強く売上高は世界シェア1位、前工程を含めても世界シェア3位を誇ります。
SiC分野では、デバイス製造の母材となるSiCエピタキシャルウエハを製造しています。
さきほど挙げた米ウルフスピードとともに2強の一角で、インフィニオンやローム、デンソーからも受注を獲得。
SiCデバイス本体ではなく、ウエハーを製造する専業メーカーです。
サムコ
サムコは、京都に本社を置く半導体製造装置メーカーです。
SiCやGaNなどの化合物半導体に特化した装置を開発しており、CVD装置・ドライエッチング装置・ドライ洗浄装置などのラインナップがあります。
化合物半導体製造装置は、加工の難易度が高く、さらに市場規模がそこまで大きくないため、大手にとっては参入障壁が高い分野。
その中でサムコはトップクラス市場シェアを誇り、他社と差別化された強みとなっています。
タカトリ
タカトリは、奈良県に本社を置く産業機械メーカーです。
半導体分野では、マウンターやワイヤーソーなどの後工程装置を手掛けます。
SiC向けのワイヤーソーでは、世界シェア90%以上と圧倒的なシェアを誇るのが強み。
2022年には、SiC材料切断加工装置の大口受注を獲得したと発表され、株価が急騰しています。
今後の動向が注目のニッチ企業です。
テセック
テセックは、東京都東大和市に本社を置く半導体検査装置メーカーです。
半導体の電気特性を測定するテスタと、テスタの測定結果から半導体を自動的に分類・選別するハンドラを開発。
パワー半導体の測定装置も手掛けており、微細化が進む半導体の最終検査(ファイナルテスト)を担う重要装置を開発しています。
おまけ:半導体株に投資する時の注意点
さいごに、半導体株に投資する時の注意点を紹介しておきます。
それは、ずばりボラティリティが高いこと。
「ボラティリティ」というのは、株価の変動のことです。
半導体業界は景気の上げ下げが大きいため、株価の変動も大きくなりがち。
長期的には上昇している銘柄でも、短期的に上げ下げを繰り返す場合があるので、デイトレードや短期投資の場合は注意が必要です。
上記のリスクを抑えて半導体株に投資するなら、やはり積立投資がおすすめ。
初心者でも少額から気軽に始められますし、ドルコスト平均法が効いて株価の変動にも有利です。
僕自身、会社の持株会で毎月定額で自社株を買っていますが、入社以来けっこう利益が出ています。
SiCパワー半導体まとめ
以上、SiC半導体の特徴と関連銘柄10社を紹介しました。
SiC市場は、将来的にさらなる拡大が見込まれる分野です。
2022年の約1700億円から2030年にはおよそ2.2兆円まで急成長を遂げる見通し。
SiCを含むパワー半導体は、日本企業が奮闘している分野でもあるので、今後も目がはなせません。
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