ラピダスとTSMCとPSMCを比較【今さら聞けない3社の違い】

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ラピダスとTSMCとPSMCを比較【今さら聞けない3社の違い】

「ラピダスとtsmcの違いは?」

「psmcってどんな会社?」

「”JASM”や”JSMC”ってなに…?」

「ラピダスとTSMCとPSMC3社の比較を教えてほしい…!」

このような疑問を解決します。

こんにちは。はくです。

2019年に大学院を卒業し、現在は半導体製造装置メーカーで機械設計エンジニアとして働いています。

本記事では、最近半導体業界で話題のラピダスとTSMCとPSMC3社の違いを解説します。

経営戦略の違いから、出資企業、立地、ターゲットとするプロセスノードの比較を、図を使ってわかりやすく説明するので、ぜひ参考にしてください。

この記事を読むとわかること

  • ラピダスとTSMCとPSMCの違いがわかる
  • ラピダスの経営戦略がわかる
目次

ラピダスとは

Rapidus(ラピダス)は、2nm世代以降の最先端ロジック半導体の量産化を目的として2022年8月に設立された日本の半導体ファウンドリです。

社長には、米ウェスタンデジタルの日本法人社長を務めた小池敦義氏、会長には東京エレクトロン社長・会長・相談役を歴任した東哲郎氏がそれぞれ就任しています。

ラピダス設立の背景はいくつかありますが、大きな目標は、世界に水をあけられた「ニッポン半導体の再生」です。

詳しくは説明しませんが、1990年代に世界を席巻していた日本の半導体産業は、2023年現在、アメリカや韓国、台湾といった海外企業に地位を奪われています。

スマホや自動車など、あらゆるものに半導体が搭載される現代において、こうした状況は経済面だけでなく、政治・社会的にも危険な状態。

そこで、日本の半導体業界に長年従事してきた小池氏・東氏を中心に、以下に挙げる国内大手メーカー8社と日本政府が出資して設立されたのがラピダスです。

ラピダスに出資する国内8社
  • キオクシア
  • ソニー
  • トヨタ自動車
  • デンソー
  • NTT
  • NEC
  • ソフトバンク
  • 三菱UFJ銀行
ファウンドリとは

半導体メーカーは、自社で工場を持たず設計のみを行うファブレス、ファブレスから半導体の製造を受託するファウンドリ、そして設計と製造を自社で一貫して行うIDMの3つにわかれる。
今回紹介する3社はすべてファウンドリ。

TSMCとは

tsmcは、台湾に本社を置く世界最大の半導体ファウンドリです。

AppleやAMD、クアルコム、NVIDIA、MediaTek、、、といった世界の名だたる半導体メーカーが、TSMCに製造を依頼しています。

知らない方が聞くと「ファウンドリってただの下請けじゃないの?」と思うかもしれませんが、それは大きな間違いです。

設計どおりの半導体を歩留まり良く製造するためには、高い技術力が必要。

とくに、先端半導体は製造できるファウンドリが限られ、tsmcは最先端の3nm世代で唯一量産を開始しています。

(ちなみに、2023年11月現在tsmcの時価総額は71兆円で日本1位であるトヨタ自動車(41兆円)の約1.5倍。)

TSMCが日本に設立する「JASM」とは

tsmcについては、しばしば「台湾有事」という問題が取り上げられます。

簡単に説明すると、これは中国が台湾に軍事侵攻すること。

もし台湾有事が起これば、tsmcの生産がストップして世界の半導体供給に影響が出てしまいます。

直近では、コロナによる半導体の供給不足で、自動車や家電の生産にも影響が出て、半導体の重要性を認識した人も多いですよね。

これを見据えて、アメリカはtsmcの工場をアリゾナ州へ誘致するなど、対策を進めています。

日本も同様で、特に日本は製造装置や材料分野は強い一方、20nm以降の先端プロセスを生産できる製造拠点がありません。

そこで、世界最大のファウンドリで最先端技術を持つtsmcを日本に誘致し、日本の半導体産業の強化国内の半導体の安定供給を目指して設立されたのが「JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)」です。

JASMには、日本政府が最大4,760億円の補助金を出すほか、日本企業のソニーセミコンダクターソリューションズデンソーもそれぞれ570億円、400億円を出資します。

また、立地はソニーの製造拠点がある熊本県菊池郡菊陽町です。

PSMCとは

PSMCは、台湾に本社を置く世界8位(2023年第1四半期)の半導体ファウンドリです。

準先端品と呼ばれる28nm以上の半導体を生産しており、安価に大量に高品質な半導体を生産するビジネスモデルを有しています。

また、半導体大手の中では唯一、ロジックとメモリを両方開発しているのも特徴です。

2023年7月、台湾PSMCは、日本のSBIホールディングスと共同で日本国内に半導体ファウンドリを設立すると発表しました。

会社名は「JSMC」で、PSMCが強みを持つ28nm以上の生産プロセスを確立することで、国内の半導体の安定供給を目標としています。

ちなみに、直近の発表で工場の建設地は宮城県黒川郡大衡村とされています。

ラピダス・TSMC・PSMCの比較

ラピダスとTSMCとPSMCの比較

ここからは、ラピダスとJASMとJSMCの違いを、上記の表を使って比較していきます。

工場立地の比較

はじめに、工場の立地はそれぞれJSMCが宮城県黒川郡、JASMが熊本県菊陽町、ラピダスが北海道千歳市です。

半導体工場は大量の電力や水を消費するため、安定したインフラ確保が不可欠。

また、ICチップは軽いため、輸送は主に自動車と飛行機を利用します。

したがって、半導体工場の立地条件としては以下が挙げられます。

半導体工場の立地条件
  • 水源が近い
  • 電力を安定供給できる
  • 高速道路や空港が近い
  • 地域や国の支援が得られる
  • 災害が少ない
  • 土地と人材が確保できる

ここで、各社が立地として宮城県・熊本県・北海道を選んだ理由は以下。

  • JSMC(宮城県黒川郡)→工業用水などのインフラが充実・半導体の技術者や半導体関連企業が多い・知事や県関係者の熱意が高い
  • JASM(熊本県菊陽町)→周辺に半導体関連の企業が多い・水源が豊富・台湾との距離が近い
  • ラピダス(北海道千歳市)→広大な土地・安価な水源・再生可能エネルギー・交通インフラ・半導体関連の高校や大学がある

これを見ると、3社ともさきほど立地条件として挙げた電力や水源の確保、交通インフラ、土地と人材の確保などを優先していることがわかります。

出資企業の比較

つづいて、3社の出資企業ですが、デンソーはともかくとしてトヨタやNTT、三菱UFJ銀行、SBIなど、一見半導体とは関係がない企業も入っています。

これについては各社理由が異なると推測されますが、共通しているのは、将来的には今回のファウンドリ3社に発注する顧客側になり得るということ。

たとえば、自動車では、今後自動運転の実現に最先端ロジック半導体が不可欠です。

EVの普及による、半導体需要の拡大も予想されます。

NTTやソフトバンク、NECといった通信企業にとっては、データセンター5Gなどで半導体が必要になります。

こうした企業が将来的に半導体を優先的に確保することが、今回出資している大きな理由と考えられるでしょう。

また、半導体製造には莫大な設備投資が必要です。

そういった意味で、金融機関であるSBIや三菱UFJ銀行が協力するのは、資金調達の面で重要な役割を果たすと言えます。

プロセスノードの比較

さいごに、プロセスノードの比較です。

半導体に馴染みがない方のために、半導体のプロセスノードについて、簡単に説明しておきます。

半導体のプロセスノード

「2nm」や「28nm」といった数字は半導体のプロセスノードと呼ばれるもので、以前はチップ上に形成される回路線幅ピッチを表していました。

(ちなみに、10ナノメートルは1億分の1メートル。髪の毛の太さは約0.1mmなので、10nmはその1万分の1程度です。)

一方で、微細化が進むと、線幅が小さすぎてリーク電流という現象が発生するようになります。

そこで、プレーナ型(Planer-FET)と呼ばれる2次元構造から、22nm以降はフィン型(Fin-FET)と呼ばれる3次元構造に変わりました。

さらに微細化が進むと、フィン型でもリーク電流が発生するようになり、最先端プロセスではGAA型(Gate-All-Around)と呼ばれる積層構造が開発されます。

したがって、厳密には、22nm以降のフィン型からは「◯◯nm」というプロセスノードと実寸法が一致していません。

ここでは簡単に、数字が小さくなるにつれて、半導体の性能が上がると理解すればOKです。

前置きが長くなりましたが、3社の半導体プロセスに注目すると、JSMCが28nm〜55nm、JASMが12nm〜28nm、ラピダスが2nm以降とキレイに棲み分けされていることがわかります。

まず、JSMCが製造する28nm以上は準先端品と呼ばれ、車載半導体の9割以上を占めるものです。

次にJASMですが、こちらはさきほどの車載半導体に加えて、ソニーが世界シェア約5割を占めるイメージセンサーをターゲットにしています。

イメージセンサーとは

光を電気信号に変換する半導体。
カメラに使われて、レンズから取り込んだ光を画像や映像などのデジタルデータとして再現する。

さいごにラピダスですが、上記2社と異なり2nm世代以降の最先端プロセスに特化しており、これは台湾tsmcと競合する分野です。

これに対して、ラピダスの小池社長はtsmcの大量生産とは異なり、多品種少量生産による「どこよりも速い短TAT(Turn Around Time)製造」を目指すとしています。

半導体の製造だけでなく、製品の開発・設計段階から関わることで、付加価値の高い製品を短納期で提供するのが、ラピダスの目指すビジネスモデルです。

ラピダスとTSMCとPSMCの比較まとめ

ラピダスとTSMCとPSMCの比較まとめ

以上、日本の半導体ファウンドリとして話題のラピダス・TSMC・PSMCを比較しました。

2023年現在での状況なので、新しい情報が入れば随時アップデートしていく予定。

速報はTwitter(@nanamemo_net)でも発信していくので、ぜひフォローしていただけると嬉しいです!

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この記事を書いた人

半導体製造装置メーカーで機械設計をしてます。

●年齢:28歳・社会人5年目
●目標:半導体業界の魅力を伝えること

「半導体業界のリアルな働き方」をテーマに、本業で学んだ内容を発信しています。
ツイッター・インスタグラムも毎日投稿しているので、ぜひフォローお願いします。

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